滋賀県地域情報化推進会議で現在開催中の短期集中サービス開発プログラム「Tech Lake Sprint」について、これから数回にわたって開催レポートを発信していきます。

9月5日、本来であれば会場となるはずだった滋賀県DX官民協創サロンには、誰もいません。

Tech Lake Sprint初日のワークショップは、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を受けて、オンライン開催となりました。この状況下にも関わらず、県内外から20名の方々からのエントリーをいただきました。高校生から経営者まで、実に多様な方々が Zoom と Slack を使ってフラットにコミュニケーションを取り合い、この1ヶ月一緒にプログラムに臨みます。

このプログラムで行うこと

ちょうど先日、こんなツイートがありました。まさに今回の Tech Lake Sprint は、そんな「アクセシブルな行政」を目指せる一歩になればという思いがあります。

今回のプログラムは政策提案を行うものではなく、とある滋賀県職員のとある業務にフィーチャーし、その業務の価値を再定義することを目標にしています。単純にシステムを導入して業務を省力化するというのではなく、その業務から生み出される情報にどのような意味を持たせるのか(新たに持たせられるのか)という点を重視したプログラムです。

3〜4週間という限られた時間のなかで、まずは解決すべき問題を見極めることに集中し、その答えについては都度フィードバックを得ながら試行錯誤していくプロセスを大事にします。そしてそのプロセスを、業務を行う当事者ではなく、また公務員だけでもなく、組織をこえた多様な人々と共有することによって、「アクセシブルな行政」にしていきましょうと、そのようなプログラムになればいいなと思っています。

フィールドは「CO2ネットゼロ推進課」の業務

そして今回このプログラムに協力してくださることになったのは、滋賀県庁の「CO2ネットゼロ推進課」という部署です。ここで簡単に、この部署がどんなことをしているのか、紹介します。

そもそもCO2ネットゼロというのは、経済活動等で排出されるCO2の量と森林等で吸収されるCO2の差し引きがゼロになるという考え方です。CO2等の温室効果ガスを減らす「緩和策」と、近年起きている大雨の被害等、緩和策だけでは避けられない影響を軽減するための「適応策」を、相互補完的に行なっていくことが必要とされています。

CO2ネットゼロの推進は横断的な取組みになるため、この課の仕事は、CO2ネットゼロに対する全庁的な取組みの方向性であったり、県民や事業者の方々が「CO2ネットゼロ社会づくり」に関わっていくためのビジョンづくりが、大きな使命になります。

特に今年度はCO2ネットゼロに向けた「滋賀県低炭素社会づくりの推進に関する条例」の改正や、関連する計画のバージョンアップなどに取り組んでいます。

この Tech Lake Sprint では、彼らの業務すべてではなく、一部の業務にフィーチャーします。

観察で気を付けること

初日である今日は、まず参加者の皆さんと、今回のプログラムの目的を踏まえ、チームごとに目標を共有しあうことをゴールにします。何せ初めて会う方ばかりですから、そのアイスブレイキングから行う必要があります。

そこで参加者の自己紹介を終えた後、準備運動の意味もこめてワークショップを用意しました。滋賀県職員有志による行政×デザインのプロジェクト「Policy Lab. Shiga」でもやってみたもので、評判がよかったため今回のプログラムでも取り入れてみました。

翌日には、業務を担当する職員の仕事を観察したり、インタビューを行います。そこで、その観察のための勘所について、ワークショップ形式で共有するというものです。

お題は「ゼリーの新パッケージを考えるための行動観察」。被験者がゼリーを食べる様子をできるだけ細かく記述していただきます。本当は間近くで観察できればよいのですが、コロナ禍の状況でそれはできません。そこでスタッフが被験者の様子を事前撮影し、その動画を見ながら記録していただくことにしました。動画を見られるチャンスは2回。記録にあたっては、以下の点について予め気をつけてもらいます。

  • 「仮説」や「予見」「思い込み」は捨てましょう
  • 最初は「記録」に徹して、解釈は記録の後に行いましょう
  • モノではなくコトを見ましょう
  • なぜこの人はこうしているのかという「問い」を立てて、観察の焦点を当てましょう

果たしてどれだけ記録できたでしょうか?どんな記録がとれたでしょうか?

1回目は動作を書いていましたが、2回目は動作をしている人以外のこと、窓の外が明るいとか、周りは飲食店っぽいとか、目の前に空気清浄機があるとか、余計かなと思いつつも記録していました。あと手元のメモには物件の間取り図を書いて、どこに何があるかという記録も書きました。

私は「女性が右手でスプーンをもって左手でカップを持って」という状態のほか、何を食べているのか、「桃を食べて、桃を食べて、ゼリーを食べて、ゼリーを食べて、ゼリーを食べて」というように一つずつメモしました。あと何口くらい噛んでいるのか、ゼリーは6回ぐらい噛んでいるのかなということを見ていました。
同じ桃でも、一口で食べているときと、切り分けているときがあったり、ゼリーと果物を一緒に食べているときがあったり、そういった違いがありました。

女性の動きを見ていたんですが、左手で器を支えながら、器を捻り回してゼリーを食べていました。掬いやすいようにしていたのかなと思います。あと机が汚れないようにだと思いますが、机の上に敷いたティッシュの上にゼリーのふたを置いたり、手を拭いたりしていました。

他の参加者の記録を聞いていると、如何に人によって観察の視点が異なるかがよくわかります。カップを「大きい」と表現した人がいましたが、別の人にとってはそれは「小さい」と感じるかもしれないように、主観と客観を分けているようで分かれていないことも、他の人の記録をすり合わせることで気づくものです。

それ故に、観察やインタビューといった記録をとる場面では複数人で行うことが肝要です。それによって事実と解釈を分けることができ、洞察の際に行き止まりにぶつかっても、戻りやすくなります。

また、ゼリーという「モノ」だけでなく、食べている人のコンテクストに気を付けることも大切です。なぜこの場所で食べているのか?どういうシチュエーションでゼリーを食べることになったのか?そのようなことも、例えば食べている部屋の様子を記録することで、掴めることがあるかもしれません。

チーム分け、翌日の準備

午前に行ったワークショップのポイントを踏まえて、午後は、翌日行う県職員の業務観察やインタビューの初期視点について、チーム別に検討していただきました。

今回は1チーム5人編成で、4チームができました。今回の調査対象となるのは「CO2ネットゼロ推進課」。その職員へのインタビューを行う前に、彼らの業務内容、また実際の業務ファイル等を共有し、チーム別に事前リサーチを始めます。

こちらのチームでは、業務内容から感じた課題について議論しながら、その論点をリアルタイムにドキュメントで整理&共有することで、チームメンバー間の認識のすり合わせを行っています。

業務の説明を聞いて気になったことを、オンラインのマインドマップツールを使ってまとめあうチームもありました。各チーム、オンライン環境でのチームワークに慣れた人たちがうまくリードしながら、チームメンバーの声を集約していきます。

ちなみに参加者の皆さんとは予めチーム編成にあたって「ハスラー」「ハッカー」「デザイナー」のどの役割に自分が向いているかを確認していたのですがが、チーム内でそれぞれの役割を生かしあってもらうことを、このプログラムでは大切にしています。

チームメンバーがそれぞれの強みや違いを尊重しながらプロジェクトを進めていく、そんなチークワークのもと、9月24日(金)までの期間を取り組んでいただけたらと思います。

(次回レポートはこちら)