滋賀データ活用LABの概要と、令和2年度のテーマ「観光・交通」

滋賀県地域情報化推進会議では、令和元年度からICT利活用検討部会(滋賀データ活用LAB)を設置し、企業や行政機関が持つデータが地域課題解決にどのような可能性をもたらすのか、テーマ別に研究を行うこととしています。

令和元年度から2年度にかけては、「観光」「交通」分野のデータ利活用の検討を行ってきました。各企業からデータをご提供いただき、それぞれのデータについて、立命館大学、滋賀大学、滋賀県立大学の3大学に分析を依頼し、令和3年3月2日に開催した「研究発表会」にて分析結果を発表しました。このレポートでは、各機関からの発表内容を報告します。

各機関からの発表

立命館大学「バスロケーションデータを用いたバス所要時間の変動特性の分析」

立命館大学では、路線バスが抱える課題について取り上げ、時刻表とバスの到着時間の乖離に着目し、バスの遅延要因を分析しました。

バスロケーションデータを可視化(グラフ化)し、通勤通学の時間帯は遅延が発生しやすいことや、雨の時間帯の方が遅延すること、特定の地点で混雑する傾向があることがデータから読み取れました。

また、大学の1限(9:00)に間に合うバスについてデータ分析を行ったところ、雨天時は、早く出発したバスでも遅くに出発する別系統のバスの方が到着が早くなる場合があることが分かりました。

滋賀大学「びわ湖フリーWi-Fi 現状把握と地域発展のために」

滋賀大学では、無料のWi-Fiサービスである「びわ湖 Free Wi-Fi」のデータを用いて、可視化されたことのないびわ湖 Free Wi-Fiの利用実績について、現状把握および分析を行いました。

過去36か月分のデータを見てみると、該当期間内で利用が無かったアクセスポイント(AP)が一部あったことが分かりました。また、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年4月以降は、びわ湖 Free Wi-Fi全体の利用者数が急激に増加しており、また、ホテルやグルメ分野では、2020年3月~5月でびわ湖 Free Wi-Fiの利用が減少していることがデータから読み取ることができました。

また、APが設置されているはずの現地でSSIDを確認できない場所(Wi-Fi利用不能)があったり、利用者に偏りや極端に少ないままの場所(Wi-Fiが特定の人のためだけのものと思われる)の存在が分かりました。これについては、他のWi-Fi設置の有無などが影響している可能性があり、現状を把握したうえで設置施設等に状況をフィードバックすべきだという提案もされました。

AP設置場所をカテゴリー別に分析したところ、交通施設や観光スポットではAP利用者数が伸びやすい傾向があり、これらのカテゴリーでのAP設置を積極的に行うことの可能性が期待される一方、グルメでは数字に伸びがあってもそこでの利用は特定の人の繰り返しが見受けられることがあるなど、本データ活用には注意深い継続的な観察の必要性が指摘されました。

滋賀県立大学「地図の上に現れる滋賀県における旅客データの可視化と分析」

滋賀県立大学では、宿泊傾向データとタクシー走行データから、滋賀県における旅客データの可視化と分析を行いました。

宿泊傾向分析では、県外地域のデータと組み合わせて分析を行いました。地域のデータの相関関係を分析し、相関の強弱を図表化することで、観光客がどのような地域を行き来しているかを確認しました。

また、タクシー走行データについては、1か月分のデータを用いて、乗降頻度をヒートマップで図表化しました。ヒートマップによる可視化では分かりにくい移動パターンについては、行列を使った分析を行い、駅から乗車した人は、特定施設の周辺で降車すること、特定施設周辺で乗車された人は、駅で降車することが多いことなどが分析結果から分かりました。

データ提供者からの主なコメント

近江鉄道株式会社、近江タクシー株式会社

  • 鉄道駅で実施している渋滞解消に係る交通規制の社会実験などでもバスロケーションデータを活用できるのではないか
  • タクシー走行データの分析結果については、乗合タクシーの役割を確認することができたが、乗合タクシーが無い地域の場合は分析結果がまた違ってくるのではないか、時間帯別に分析するともっと面白くなるのではないか

株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス

  • 普段の業務とは違った視点から意見をもらえた
  • データをつぶさに分析したことがあまりなかったので、事業者としては耳が痛い内容も含まれていたが、今後の施策に活かしていけるのではないか
  • コロナ禍で公衆無線LANの使われ方に変化があったということが分かり、人々の行動変容をデータから見ることができた

株式会社リクルートライフスタイル

  • 地域ごとに分析されたところに興味がわいた
  • データ自体が2020年3月までのデータだったので、新型コロナウイルス感染症の流行後にどのような傾向があったかというのも興味がある
  • 宿泊傾向データだけでなく、タクシーやWi-Fiデータと組み合わせて分析を行えば、もっと面白い結果が出てくるのではないか
  • データは活用してこそ価値があるので、今日の分析結果を踏まえてデータ分析の取組をもっと進めていきたい

まとめ

今後、DXを推進する上では、デジタルの浸透を図ることが求められています。しかし、まだまだ県内ではデータの価値を見据えた投資が進んでいないのが実態です。

企業や行政の経営にどのようにインパクトを与えることができるかという観点で、それぞれがデータを持ち寄り、企業価値を高める努力をしようという雰囲気が醸成されることが、データ利活用の活発な議論につながると考えています。