2022年3月5日(土)、滋賀県庁にある「滋賀県DX官民協創サロン」というスペースを借りて、自治体サイトから行政サービスをハックするハッカソン「shigovhack」を開催しました。

このハッカソンは、甲賀市に協力をいただき、「甲賀市のウェブサイトにアップされているデータやコンテンツを、すべて自由に活用してよいと言われたら、1日でどんなサービスを作ることができるのか?」というお題のもと、自治体職員も加わり、みんなで「ハック」することで、市民と行政の垣根のないオープンな関係づくりを模索するというものでした。

このハッカソンの参加要件は、

  • コードが書けること(レベルなどは不問)
  • 一人でウェブサイトやサービスを実装した経験があること
  • Slackが使えること
  • シビックテックに関心を持っていること

と、かなりハイレベルなルールにしたのですが、なんと高校生から会社経営者まで、11名の方々がこのハッカソンにエントリー。予め設置したSlackワークスペースを通じて事前に自己紹介をしあいながら、当日までにどんなものを作るか、自治体職員も加わり会話を重ね続け、ハッカソン当日に臨みました。

当日の様子

3月5日(土)、朝9時の滋賀県庁です。ハッカソン当日の参加方法は、オンラインでもオフラインでも自由というルールにしたのですが、メイン会場とした滋賀県庁には当日8名もの皆さんが集まりました。中にはなんと、愛知から始発の新幹線で来てくれたという方も。

会場に来られなかった参加者らとは、ZoomやSlackを通じて、会場のみんなとやり取りを行います。なお会場のインターネット回線は、ソフトバンク株式会社CSR本部の協力によって提供いただきました。

当日はお題となっている甲賀市の行政職員も加わり、市役所側の業務フローなどを参加者と共有しあいます。

Slackを通じて「こういうのを作ってみよう」と意気投合してチームを結成。オンライン参加のエンジニアと一緒に、役割分担をしながら開発を試みます。

他のチームの開発者からフィードバックを得ながらサポートしてもらうなどして、一緒に開発を行えるというのも、ハッカソンの魅力です。

このテーブル、普段はスタンディングテーブルになっていて会議スペースになっているのですが、この日は集中作業スペースになっていました。

各々のタイミングで自由に作業したり休憩を挟んだり。チームや役職関係なく分け隔てない情報交換をしながら、それぞれサービスを作り上げていきます。

外も真っ暗になりました。もともと19:00までの予定でしたが、もう少し粘りたいという参加者の意向で1時間延長することに。さて、11時間のハッカソンで、どんなものができたのでしょうか?

成果発表

最終的に4つのプロトタイプができました。それぞれの発表をまとめましたのでご覧ください(画面はいずれも開発中のデモであり、公開やサービス開始は(まだ)していません)。

サル目撃情報アプリ「さるアト」

このハッカソンに参加表明した際、甲賀市の職員さんに「市役所での問題って何かないですか?」とお聞きしたところ、ニホンザルの群の防除対策について教えてもらいました。

市では群れに属するニホンザルに発信器のついた首輪を取り付けて、その位置情報を市民にメールで送信しているそうです。この位置情報は「N-17」などという記号で届くんですが、「N-17ってどこ?」というのが、メールを受ける住民はすぐにわからないというのが課題になっているそうです。

そこで、毎日送られてくるサルの位置情報をデータとして蓄積して、わかりやすく可視化しようと考え、僕たちはハッカソン開催の2週間前から開発を始めることにしました。

出来上がったものがこれです。自分の位置関係からどこにサルが出ているのかが分かるようにしたほか、ヒートマップとして表現することで、群れとしての行動履歴を把握できるようにしたり、群れからはぐれたサルの位置情報も掴めるようになっています。

また、僕たちはもう一つの課題に取り組みました。実はこのサルの位置情報については、市の職員がいちいち確認して手作業で入力していて、その手間が大変になっているそうなんです。その辺りも一緒に解決しましょうということで、エリア単位や日単位で情報入力できる専用フォームを作りました。これによって作業時間を省力化してアプリにも日々反映される、便利なものが作れたんじゃないかと思います。

甲賀市マッピングポータル

実は私事ながら先日発熱をして、結果的にコロナではなかったものの、発熱外来を探す際に苦労したという出来事がありました。

そういった経験を踏まえて各地のサイトを見てみたところ、大体都道府県単位で掲載されていて、滋賀県ウェブサイトのページのようにまとめられていることがわかりました。これでは分かりにくいと思ったんです。

このような発熱外来だけでなく、生活における緊急時に活用できるマッピングページができないかと思い、「甲賀市マッピングポータル」というタイトルで作ってみることにしました。

甲賀市内の発熱外来一覧については、甲賀市のウェブサイトにはなかったため、滋賀県のページを加工してみようというところから作業を始めてみることにしました。

Google Apps Scriptを使って、まずは先ほどの滋賀県のページから、診療所の名前・住所・電話番号・診療時間の情報を拾いつつ、Google APIを使って住所から緯度経度に変換しました。そしてこのデータを用いて、地図上にポイントが表示されてクリックするとその診療所の詳細情報が出てくるようなページを作っています。

実は私、2015年に甲賀市でオープンデータワークショップの講師をさせていただいたことがあるんです。そのワークショップの時に作成した、データを地図にマッピングできるファイルテンプレートを、今回のハッカソン用に改良して、ページを作りました。

甲賀市の行政データ可視化サイト

我々は4名のチームメンバーでサービス開発を行いました。「甲賀市の行政サイトを可視化する」というテーマで、公式サイトの文字情報では分かりにくい情報を分かりやすくするというコンセプトです。

自治体の財政状況や議会議事録の情報は、その存在をそもそも知らなかったり、その情報にたどり着くまでが大変だったり、たどり着いたとしても情報の理解に時間がかかったりするものだと思います。

そこで私たちは、そういった情報が自動的にわかりやすく可視化されるシステムをつくり、興味を惹くようにするというコンセプトで開発を行いました。行政や政治にあまり興味のない人に見てもらえたらと思い、デザインは柔らかな雰囲気にして、堅苦しい感じを消しています。

今日1日で開発できたのは、財政情報と議事録情報です。財政状況はこんな感じでグラフ化をしています。

また議会議事録については、数万文字という分量のためなかなか見に行く人って少ないと思うんですが、これをAI要約のツールを使って自動要約して、わかりやすくポイントだけ押さえるほか、興味を持ったら要約元となった議事録詳細ページへアクセスできるようにしました。要約があれば、全部読む気力がないという人でも、どのような議論がなされているのかということを理解できます。

ただタスク分配をミスってしまって、コーディングも途中の段階になったのが心残りです。ここまで作ったので、普通に完成させたいと思っています。

裏側はまだベタ書きをしている状態なので、ちゃんとAPIにしてスクレイピングできるところまで行けたら最高だなと思っていますし、3つめのコンテンツはまだ作れていませんが、先ほどの「甲賀市マッピングポータル」を統合させられたら面白いなと思いました。

この後余裕があれば1週間ぐらいで調整して、公開できる状態に持っていけるんじゃないかなと思います。

窓口案内のメール呼出通知システム

甲賀市役所の窓口では、まず整理券を受け取り、その番号を呼ばれたら窓口で手続きができるようになっているそうです。僕が住んでいる自治体の窓口でもそうなっているんですが、以前友達と喋り込んでいたら番号を呼ばれていたことに気づかなくて、いつの間にかとっくの前だったということがありました。そこで、呼出しがあればスマホに通知してくれる仕組みがあったらいいなと思い、作ってみることにしました。

最初はPWAという仕組みを使ってWebアプリを作ろうと思っていたんですが、実装できる技術を持っていなかったので、Google Apps Scriptを使って2人でモックを開発してみました。

窓口に訪れた人はプリントされたQRコードをカメラで読みとります。すると入力フォームが表示されるので、そこにメールアドレスを入力すると、自治体側が管理しているGoogleスプレッドシートにそのメールアドレスのデータが記録されます。窓口の人が手続き可能な時間になったら、チェックボタンを押すと入力されたメールアドレス宛にお知らせが届く、という仕組みになっています。

市民と行政の垣根のないオープンな関係から、データをオープンにしていくこと、そして共創を生み出すこと

せっかく今日11時間もかけて作ったプロトタイプをそのまま終わらせてしまうのはすごく勿体無いので、サービスインできるものは実現に向けて検討できたらいいですよね。

今回のハッカソンは「甲賀市のウェブサイトにアップされているデータやコンテンツを、すべて自由に活用してよいと言われたら、1日でどんなサービスを作ることができるのか?」というお題でしたが、今回使ったデータが今後も使えるよう、いくつかのチームでは、これから甲賀市役所の方々と相談を試みることになりました。

今回のハッカソンで協力してくださった甲賀市情報政策課ICT推進室の西島さんは、今日の集まりを振り返って次のようにコメントします。

こんなにたくさんの開発者の皆さんが集まるというので最初緊張していたんですが、甲賀市のサイトから皆さんとたくさんの面白いアイデアを出しあい、実際に作ることができて、良かったと思っています。

今日の行政のオープンデータの取組みは、先が見えない中で職員の手間がかかっている点が大きなネックになっています。そんななか、あえて今回オープンデータとして提供している以外のデータも「自由に活用してよい」と宣言することによって、課題を共有しながら一緒に作っていくことができました。

今回のような協働のアプローチによってオープンデータが増え、もっと一緒にサービスを作りあえるような取組みを、行政としても進めていけたらと思いました。

また、今回の参加者のひとりで、実は今回のハッカソン企画のきっかけを作ってくださったさらだぼぉるさんに、今日の感想を尋ねてみました。

楽しかったです。普段は自室で一人で開発しているんですが、こうやっていろんな人と協力しながらワイワイやるのは、自分の技術力アップにもなりますし、モチベーションアップにも繋がり、よかったと思います。

ハッカソンの最終発表が終わった後も、こんな感じでずっとみんなで雑談をしあっていました。学生とか社会人とか行政とか一切関係なく、こういう「人」単位でのフラットな関係を県内でいっぱい作っていけたら、もっともっと面白いことができるかもしれませんね。

さらだぼぉるさん曰く、彼がモノをつくる原動力になっているのは「これってもっとわかりやすくなるよね」という自身の純粋な興味なのだそうです。今回は甲賀市の協力を得てこのようなハッカソンが実現しましたが、今日のような集まりが今後も実現するために、行政などデータを持っている人たちに、どんなことを求めたいと思うのでしょうか。

行政の人たちに声をかけようとする際、何か見えない壁を感じています。僕たちのようにデータがほしいという人に対してもっとオープンであるというか、もっと心理的にコンタクトしやすい環境ができたら、いろんな開発が一緒にできるんじゃないかなと思います。

オープンデータを提供するのも大切なのでしょうが、そもそも欲しいデータがオープンデータとして提供されていないことが多いんですよね。だったら自分が欲しいものを見つけてきて、自分の好きな形で使えるように、データを持っている人たちとコミュニケーション取れていたほうが楽しいんです。

データをオープンにする以前に、まずデータを持っている人たちの所在がオープンになっていること、そしてその人たちに声をかけやすい関係づくりが、シビックハックやガブハックを推進するうえでも大切なのでしょう。

最後はZoomごしに記念撮影。11時間にわたり本当におつかれさまでした。これからサービス化に向けて、引き続き皆さんと一緒に相談しあえたらと思います。

参加者のブログ

今回のハッカソンに参加してくださった方々のブログをリンクします。よかったらぜひご覧ください。

shigovhackという滋賀県と甲賀市主催のハッカソンに参加してきた話 | さらいふ

https://blog.saladbowl.work/blog/2022/03/shigovhack2022/

初めてハッカソンに参加した話(shigovhackに参加してきました)by奥西授 |立命館守山インパクトゼミ(GENIE) | note

https://note.com/250ritsumei/n/n656cd143c6ca