デジタル活用支援検討部会は、デジタル活用に係る機会または必要な能力における格差(デジタル格差)を是正することを踏まえた、デジタル活用支援のあり方について、現状把握等を行いながら検討することを目的に設置されました。
ここでいう「デジタル活用支援」とは、いわゆるスマホ教室のことを指します。スマホ教室は既に携帯キャリアが各店舗で実施されていたり、携帯キャリアのみならず民間事業者や自治体などによる出前教室などが開催されていますが、今年度から国が「デジタル活用支援推進事業」というスマホ教室開催に対する補助事業を始めたことで、現在滋賀県でも数多くのスマホ教室が展開されるようになりました。
この部会では、そんな国の動きを踏まえて、現在各地で開催されているスマホ教室の現状把握から、その課題を踏まえ、最終的にデジタル格差の是正に向けて何ができるかを模索しあいます。そういった背景もあって、部会員も携帯3キャリアが揃うほか、スマホ教室が展開されている市町の方々、またそのテーマに関心のある企業さんにご参加いただいています。
- 近江ディアイ株式会社
- キステム株式会社
- 株式会社あいコムこうか(今回は欠席)
- 株式会社滋賀銀行
- 株式会社ドコモCS関西滋賀支店
- 株式会社ナユタ
- 日本ソフト開発株式会社
- 株式会社平和堂
- ソフトバンク株式会社 CSR本部 地域CSR3部
- KDDI株式会社 関西総本社
- 株式会社Honki
- 大津市
- 彦根市
- 長浜市
- 近江八幡市
- 草津市
- 守山市
- 栗東市
- 甲賀市
- 湖南市
- 高島市
- 東近江市
- 米原市
- 日野町(今回は欠席)
- 竜王町(今回は欠席)
- 豊郷町
- 多賀町
- 滋賀県
第1回の部会は初顔合わせということもあり、事務局が主導となって、まずはお互いの取組みを共有しあうところから始めることにしました。
スマホ教室の実施状況について
そもそも現在県内で開催されているスマホ教室は、大きく3つに分類されます。
一つは、主に各携帯キャリアが全国の店舗で定期開催しているもの、そして携帯キャリアのほか自治体や民間企業等団体が出前教室の形式により各地域のコミュニティセンターなどで単発開催しているものです。そしてこれらの教室のうち、主に国の行政手続・サービスの利用方法に関する講座を開くものに対して国が補助を行う「デジタル活用支援推進事業」というものがあります。
この整理を踏まえて、部会第1回では、現在のスマホ教室の現状と課題について、実施事業者さんや市町の皆さんからの声を共有しました。緊急事態宣言時は人数を絞るなど感染対策で苦労されたそうですが、どのような教室が人気で、どのような課題を感じられたのでしょうか。
行政手続・サービス利用に関する教室開催のニーズ
携帯キャリアが実施するスマホ教室は、携帯ショップ店内で定期的に開催されるものと、自治体や社会福祉協議会等からの依頼を受け、単発で出前開催されるものがあります。
そのうち、携帯ショップ店内で開催されるスマホ教室では、デジタル活用支援推進事業スタート後、行政手続・サービスの利用に関するニーズが高くなったそうです。
「デジタル活用支援推進事業」で実施される教室で最も人気が高いのは「マイナンバーカード交付申請」に関するものです。
また、「デジタル活用支援推進事業」とは別の店舗独自の取組みで、最近ではワクチン接種予約の操作サポートもご協力させていただいております。
マイナンバーカード交付申請に関する教室は、滋賀県に留まらず、全国的にも人気の傾向です。お客さまからも感謝の声が多く、マイナンバー制度やマイナンバーカードの仕組みをご存知ない方がまだまだ多いことから、引き続き需要があると認識しているのと、マイナポイント手続支援についても強く推進していきたいところです。
一方で「デジタル活用支援推進事業」をきっかけに現在県内各地で単発のスマホ教室を展開している株式会社Honkiの吉田昌孝さんは、逆にそのような教室は不人気だと話します。
行政手続・サービスに関する教室は、民間単発開催の場合は不人気です。スマホによるマイナンバーカード交付申請では、QRコード付き交付申請書を持参していただく必要があるのですが、その持参を拒まれることが多いのです。行政手続等に関する教室は、ある程度回数を踏んでスマホの使い方に慣れ、安心して使っていただけるようになった段階でないと難しいのだろうなと思います。
ショップ教室と出前教室、それぞれの役割が違う
どうしてこのような違いが起きるのでしょうか。株式会社Honkiの吉田さんによると、単発出前教室では「初めてスマホを使う方が多く参加される傾向がある」そうです。
1教室7人定員で実施しているのですが、ほぼ満席で好評をいただいています。参加者は初めてスマホを使う方が多く、スマホを持っていたとしても、SMSと電話しか使っていないという方が多いと感じています。
受講者にアンケートをとったところ、「スマホについて困ったときに相談できる相手はいますか」という項目に対して、参加者の半数近くが「相談できる相手はいない」と回答されました。携帯ショップへ行くにも何度も同じことを尋ねにくい、気軽に相談しにくいという方が多いようです。スマホ使いはじめの方が多いのはそのためなのかなと思っています。
その話に携帯キャリアの各社も同調します。
携帯ショップでのアプローチは重要ですが、「ショップに行きにくい」という声は少なからず聞いています。ご家族の方などに「大丈夫だよ」等と後押ししていただけると、参加しやすいのかなと思いますね。
「ショップは行きにくい」という声は確かだと思います。特に初心者や使い慣れていない方はショップへ行きにくくて、ある程度スマホを使い慣れた方がマイナンバーカードの交付申請をしたいと言ってショップへお越しになるのかなと思うんです。
その意味でも、現状のショップ教室の役割と出前教室の役割は大きく違う。出前教室は基礎のニーズが高いのかなと思います。
スマホが楽しいと思ってもらえるように
滋賀県内各地をまわり、自治体等の要望を受けて出前教室を開催されているソフトバンク株式会社の黄瀬清典さんは、自治体から受ける要望を踏まえて、以下のように話します。
自治体からよくご相談を受けるのは、各自治体で提供しているアプリやLINEサービスに関する使い方に関する教室の開催です。しかしスマホに対して「使って楽しい」と「面白い」と思ってもらえるような方が増えないと、なかなか一足飛びに、そういった自治体が望むようなスマホを通じた情報提供へは進めないと思うんです。
スマホを持っているけれども使いきれていないという方に向けた教室では、「キャッシュレスを使えるようになりたい」とか「防災情報を受信したい」といった声を聞きます。そうした方をいかに増やしていけるかが大事なのだと思います。
一方で、出前教室であっても習熟度の高い方が参加されることもあるのですが、株式会社Honkiの西澤尚樹さんによると、そのような方は主に教室のリピーターとなった方が多いそうです。
うちが開催する教室では、スマホの習熟度に応じて4つのレベルに分けているのですが、基礎を受けたあと、それぞれのレベルの教室を受けられるという方が多いです。そうしたリピーターの参加者さんからは「今日◯◯さん(講師)来てないの?」という話もされたりしています。講師にファンがつくことによって何度も受けに来てくれるのかなと思います。
行政手続・サービスの利用教室も、こうしたリピーターを増やすことによってニーズが高くなるのかもしれません。株式会社Honkiの吉田さんは次の仕掛けも考えているようです。
キャッシュレス決済やマイナポータル等について、実際のサービスを使う前に模擬体験していただけるような教室も実施できないか検討しています。「実際にスマホ決済するのは怖いけれども、どうやって決済が行われるのか知りたい」という方が多いと感じており、そうした声に模擬体験を通じて応えていきたいと考えています。
集団開催の難しさとメリット
大津市では、生涯学習事業で行われている様々な出前講座の一つとしてスマートフォンの基礎講座を設けられています。申込みがあれば直接職員が出向き、教室を開催しているそうです。
大津市では自身のスマホを持ってきてもらう前提で出前教室を行っていますので、「スマホを持っているけど使いこなせない」という方の受講が多いです。
出前教室で関心を持たれるのは、スマホの基本的な使い方というより、大津市LINE公式アカウントの利用方法や、市役所アプリの取得方法といった内容のほうかなと思います。また、ワンクリック詐欺など不審なメールへの対応といった、リテラシーに関する話も熱心に聞いていただいています。
大津市の出前教室を申し込むには「10名以上」という条件があるのですが、この条件がつくことで見られた傾向について、大津市の竹内友香さんと楠有矢さんは、以下のように話します。
1対10以上の教室では、講師のほかに数名の補助員がつける必要があります。講師が説明している最中でも、各々持って来られたスマホの使い方が気になるようで、複数の方が度々途中で補助員に声をかけるからです。
大人数の教室では、講師の説明よりも個人相談という場になりやすく、当初想定していたカリキュラムが横道に逸れるようなことも多々あります。ただ、セキュリティや安全面に関する話になると、皆さん集中して聴かれるようになるんです。
大津市の教室は団体申込みが原則なので、知り合いどうしで申し込まれることが多く、複数の個人が集まる教室よりも場が盛り上がるのかなと思います。なかには参加者のサポート役として参加される方もいらっしゃいます。
シニア向けスマホに関する問題
ここで、「らくらくホン」「簡単ケータイ」「シンプルスマホ」等、携帯初心者層およびシニア層向け携帯電話(ここでは便宜上、通称「シニア向けスマホ」と表現します)に関する話題になりました。
自治体からは「観光・防災・行政手続の研修を行ってほしい」という声を聞くのですが、その自治体が提供するアプリが、シニア向けスマホではどのように挙動するのかが謎な時がありまして、教科書を作って対応するにも難しいんです。
以前生涯学習の出前教室として実施したスマホ教室では、Zoomのダウンロードから全部対応したことがあるのですが、シニア向けスマホだけはiPhoneや通常のAndorid端末と違ってアプリの挙動が違い、苦労したことがあります。
大抵のシニア向けスマホはAndroidベースで作られているのですが、各メーカーやキャリアがそれぞれ全く異なるUI(見た目や操作性)によって作られることから、アプリの開発者も、どのようなシニア向けスマホがあり、それぞれどのような挙動をするのか、網羅できないのです。
スマホ教室も、iPhoneとAndroid端末とは別に「シニア向けスマホ向け」の枠を用意するか、対応できないということになるそうです。大津市の竹内さん・楠さんは、シニア向けスマホにも対応したいけれども難しい悩みを打ち明けます。
大津市では教科書も自前で作っていまして、Android端末とiPhoneの説明は入れているんですが、シニア向けスマホは職員でも持っている人がおらず、資料がないためテキストに載せられないんです。シニア向けスマホは通常のスマホと異なり挙動が違う上に、個人のカスタマイズが行われていたりもして、説明してもその通りに動かないとか、不明な挙動が多いため、LINEの開き方といった基礎的な使い方からサポートできないんです。
株式会社Honkiの吉田さんもその声に同調します。
シニア向けスマホでもう一点難しいのが、ご家族など身近におられる方が教えられないということなんです。なので、孤立した状態になってしまう。
一度みんなでシニア向けスマホを使ってみる集まりをやってみてもよいかもしれないですね。まずは可能な範囲で各社のシニア向けスマホの説明書等資料を共有いただけるか、各携帯キャリアさんで検討していただくことになりました。
デジタル格差の解消に向けて
スマホ教室の開催だけでデジタル格差は解消されるわけではありません。一般社団法人行政情報システム研究所が発表したレポート『行政サービスにおけるデジタル格差に関する調査研究』(2021年)では、デジタル格差を生む要因と課題について、5つのレイヤーで整理されています。
- 行政プロセスへの抵抗感・無関心
- デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
- 身体的・認知的ハンディキャップ
- ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
- 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如
今日の議題になっている「スマホ教室」は、このうち「4. デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」の領域を対象とした取組みになると整理されるわけですが、その点を踏まえて、各市町では現在のスマホ教室開催の取組みやデジタル格差対策の取組みについて、どのような課題を持ち、取組み等を検討されているのでしょうか。
どの部署が取り組むか、また連携するか
今回県内スマホ教室の開催状況を取りまとめるにあたり、各市町に尋ねたところ、市町によっても部署が異なっていたり、複数の部署が開催していることがわかりました。滋賀県庁でも、教育委員会の生涯学習課が開催するスマホ教室もあれば、消費生活センターが開催するスマホ教室もあり、また視覚障害者センターが開催するスマホ教室もあります。
これらの状況で、庁内全体での体制整備や役割整理を模索されている声も聞こえてきました。
今年度はすべて事業計画が出来上がった後、国から「デジタル活用支援推進事業」の話がやってきて、民間事業者主導で取り組まれていった形ですが、政府がいう「誰一人取り残さない」とかSDGsの考え方を踏まえて、庁内でどのように進めていくのがよいのか思案しています。教室開催のノウハウや調整・手配に慣れている部署が対応していただくのがスムーズなのかなと感じる思いもあります。
正直なところ、今回のデジタル格差対策事業はバタバタと取り掛かっていました。行政事業として継続するにはどの部署がどれだけの規模でやるのかということが整理されていないのが現状です。
各民間企業で展開される教室を支援・協力する立場で、来年度も取組みを広げていければと考えています。
今年度のスマホ教室は盛況だと聞いておりまして、次年度は公民館事業として生涯学習の一環で続けていけないかと調整しています。
住民課では出前的な形でマイナンバーカードの交付申請を促す施策も行っているので、そういった取組みとも紐づけたりしながら進めていけないかと思っています。
現在開催されている教室が高くご好評いただいているので、継続してやっていくことは必要かなと感じています。あとソフトバンクさんが仰った「スマホを使う楽しみを感じてもらう」という点について、他部署の取組みとも連携しながら仕掛けを作っていけないかと考えています。
他自治体の様子を見ながら検討
まだスマホ教室が実施されていない自治体では、他市町での様子を見ながらこれから検討していくようです。
出前教室すら開催できておらず、課題認識もできていない状況なので、県内の様子を勉強させていただくところから始めていこうと思います。スマホ教室を開くにあたっては、情報部門だけではスムーズにいかない部分があるので、必要な課を巻き込んで進めていきたいと考えています。
スマホ教室は実施できていないのですが、高齢化が進むなか、デジタル格差の問題は喫緊の課題かなと感じています。今日の会議で、既に実施されている他自治体さんのお話をお聞きでき、どこかが音頭をとって整備していかないといけないと実感しています。
全容の網羅ができていない
そもそも「デジタル格差対策」という大局的な視点でこのスマホ教室をみたときに、把握しきれていない課題がたくさんあるのも現状です。
スマホ教室は、行政のオンライン化や地域デジタル化というテーマの根幹になるので積極的に進めたいと思うのですが、正直なところ、どれだけの人がどれだけスマホを使いこなせているかというのがさっぱり把握できていません。今後のスマホ教室の状況をみて把握できたらと思っています。
スマホ教室もまだ始まったばかりで、課題まではまだ整理できていません。ただ、学区によって参加率が違うらしく、学区によってカリキュラムを変えるなど工夫が必要なのかと思っています。
最近様々な営業の方が来られて、Android端末を自宅において遠隔操作をする提案など、様々なデジタル格差解消の提案をしてくれるんですが、デジタル格差について地域でどのような問題があるのか、その洗い出しができていない状態です。
これから数年後のこと、何をどう目指していくのか
この部会はスマホ教室を開催している事業者や市町のほか、スマホ教室を開催していないがデジタル格差対策に関心をもつ民間事業者さんも参加しています。その一社である近江ディアイ株式会社の藤澤栄一さんが、これら自治体の声を聞いたうえで、問題提起しました。
スマホ教室の全容を把握するためにも、各社で参加者の統計データを集めていたら、共有いただきたいと思います。また、現在は国の補助事業によってスマホ教室が開催されているのが現状のようですが、今後滋賀県でこのような仕組みをどう継続していけるのか、数年後を見越した検討を行えないでしょうか。そこに事業者がどう絡んでいくことができるのかを考えていくことができれば有難いと思います。
「参加者の統計データの共有」について、各社の話によると、民間事業者が独自単独で実施しているスマホ教室では各社独自のアンケート等を取られているようですが、それはあくまで自社サービスのマーケティング用に取られている、いわば企業秘密のようなものなので、なかなか出せそうにありません。
一方で国の補助事業「デジタル活用支援推進事業」では、国が実施事業者に実施報告書の提出を求めています。これらの情報を部会で共有することができればよさそうですが、各事業者もそれらの集計データは国からもらえていないとのことなので、この辺りの共有から国にコンタクトをとりながら模索できればと思います。
また、「スマホ教室の継続性」については、大津市の竹内さん・楠さんから、以下のコメントがありました。
スマホ教室をやってみて感じたことですが、たった1回の受講ですぐマイナポータル等のオンライン行政サービスが使えるようにはならないと思うんです。スマホ教室は国の動きを受けて活発化しましたが、これから数年後、みんなで何をどう目指していくのか、こういった部会で計画や取りまとめができたらと思いました。
ソフトバンク株式会社の黄瀬さんからは、教室だけでなく、地域で教えあう場づくりの必要性についてコメントがありました。
他県の自治体とお話しているなかでは、高齢者に教える仲間を作ろうという動きも出ているようです。スマホ教室という形態だけですと人数も限定されますから、広がりも進んでいかないところもあるだろうと思うんです。
そのなかで、教室以外の場面でも教えあえる関係を地域で作っていこうと考えている自治体もいらっしゃるので、そういった動きも参考になるのではと思います。
会議のなかで大津市から共有していただいた市開催の出前教室では「知り合いどうしで申し込まれることが多く、複数の個人が集まる教室よりも場が盛り上がる」「なかには参加者のサポート役として参加される方もいらっしゃる」ということでしたが、そのような教室の枠組みをこえたコミュニティづくりが重要かもしれませんね。
また、今後このような試みは各地で展開されることから、各地の教室を見学したりしながら、一緒に数年後の目指す姿を模索しあえたらと思います。
なお、そのことも踏まえて、現在大津市が作られているスマホ教室用の教科書をみんなでブラッシュアップしあうことで、県内の各地域で共有して使えるような教科書を作れたらという話になりました。こちらは部会というよりは有志で集まって取り組めたらよいのでしょうが、ひとまず部会員どうしで資料をオンライン共有しあうところから、取組みを進めていきたいと思います。