2021年7月9日(金)、ICT利活用検討部会の「オープンデータ推進ワーキンググループ」第1回会合がオンライン開催されました。
このワーキンググループは、企業や行政機関等が持つデータを、どのような形態でオープンにしていけば、多様な主体によるデータ連携が可能となるのか、オープンデータの提供と運用に関する論点を整理し、その方策を取りまとめるものです。
実はこのワーキンググループの大元になっているICT利活用検討部会というのは、元を辿れば2014年度(平成26年度)に「ビッグデータ/オープンデータの利活用」をテーマに、県内自治体が持つデータの利活用について調査・研究を行うことを目的に設置され、まずはオープンデータに特化した議論を進めていた集まりでした。しかしその議論の取りまとめが行われないまま、2019年度(令和元年度)以降オープンデータに関する議論が途絶えていたことから、当初「オープンデータの推進」を目的に集まっていた会員からの意見が発端となり、この7年間の整理から方策の取りまとめをワーキンググループとして行うことになりました。
このワーキンググループの主査に立候補し、選ばれたのは、今回のワーキンググループ設置の発端の一人である近江ディアイの藤澤栄一さんです。藤澤さんが地域情報化推進会議に入会したのは2015年ですが、それ以前から県内のオープンデータ推進に尽力されていました。
私がオープンデータに関わったのは2013年ぐらいからです。当時地域に関わるITの仕事をしていたこともあり、オープンデータを普及させることで地域貢献とビジネスを両立させられないかと関心を持っていました。 その後、(現推進会議事務局の)筈井さんと「Code for Shiga / Biwako」という活動をやっていたのですが、その実績からこのICT利活用検討部会において研修会をさせていただいたり、いろんな取組事例を部会員の皆さんに紹介させていただいておりました。 その後、滋賀県地域情報化推進会議に入会して、オープンデータの推進に関わり6年が経過しました。最近ではDXなどと言われていますが、バズワード化され、DXの基礎となる「データ」が蔑ろにされているのではないかと懸念しています。そこで当初の基礎に立ち返るという意味でも、推進会議で重ねてきた過去の議論をしっかり振り返り、今後の滋賀のDXに活用していけるような取組みになればと思います。
ICT利活用検討部会の議論の経緯
そもそもICT利活用検討部会がこれまでオープンデータについてどんな議論を行なっていたのかーー、会合に先駆けて、過去の議事録から、2014年度から2017年度までに行われた主な議論の経過について、大きく2期に分けて整理を行いました。今回の会合では、その整理をもとに確認しあいました。
第1期:2014年度–2015年度(オープンデータに対してどう取り組むかの確認)
ICT利活用検討部会が設置された2014年、県内では「びわ湖大花火大会オープンデータ活用実証事業」を皮切りに、県内一部の自治体でオープンデータ化に対する取組みが始まりました。当時はその取組団体が部会をリードしながら、県内の市町や企業等にニーズ調査を行なったり、オープンデータの推進にあたっての課題を確認しあいました。
ICT利活用検討部会で当時共有されていた県内事例(当時の議事録から)
- びわ湖大花火大会オープンデータ活用実証事業(2014年、2015年)※公開終了
- International Open Data Day 2015 in Shiga / Biwako(「ラ・フォル・ジュルネ びわ湖2015」「守山ほたるパーク&ウォーク」オープンデータ活用ワークショップ)※公開終了
- 大津市オープンデータカタログサイトの構想・構築
- 草津市「まめバス」運行情報オープンデータの提供など ※公開終了
- 甲賀市でちょっと便利なアプリを考えるオープンデータ協働事業
- 滋賀県子ども青少年局「ハグナビしが」内オープンデータ(アインズ株式会社が県子ども青少年局に提案して実現)
- アインズ株式会社「食べとも滋賀」アプリ内でのオープンデータ活用のための、滋賀県市町公共施設のオープンデータ公開提案
2015年に行われた県内ニーズ調査の結果(当時の議事録から編集)
- オープンデータ化の対象を大まかに分類し、データ利用側と提供側を照合したところ、「観光」「人口」「公共施設」「防災」の4分類でおおよその合致があった。そのうち「観光」「公共施設」「防災」におけるデータの重要要素は位置情報とされた
- ただし「観光」については、データ利用側の多くは必要とみている一方で提供側の回答は少なく、逆に「人口」についてデータ利用側はあまり求めていない一方で提供側は最多の回答となっており、ニーズとシーズとのずれがみられる
- 民間企業が運営する飲食店情報サイトや地域のイベント情報サイト、観光サイトでオープンデータの活用が進むこと、またアイデアソンやハッカソンを開催することで活用の機会が広がることが期待される
オープンデータの推進にあたっての課題(当時の議事録から編集)
- 自治体のオープンデータが企業などの持つデータをミックスできるようになればもっと利用価値が上がる
- 県域で取り組むには、自治体間や自治体内でデータの語彙を揃える必要がある
- 県全体で共通のフォーマットを示し、作成コストを抑える手法やプラットフォームづくりをまとめることが理想
- 官民がオープンデータを出し合い運用を進めていくには準公共セクターが中心となるべきだが、その担い手不在のままデータ提供を望む支援者のみが盛り上がっているようにも見受けられる。オープンデータの活性化においては、官と民が出会い、アイデアを出し合う場づくりが必要
- オープンデータにどう取り組むかはそれぞれの自治体の判断であるが、全体としてどういう仕組みでオープンデータを進めていくのか等について、意見交換するのが滋賀県地域情報化推進会議(ICT利活用検討部会)の役割と考える
第2期:2016年度–2017年度(オープンデータの実践と省察、組織間のデータ連携模索、他事業との連携模索)
各会員が実践してきたオープンデータの取組みからの省察
各会員がオープンデータの提供を試みてから1年以上経過したこともあり、2016年度以降は主に取組みに対するハードルが共有されたり、反省が行われるようになりました。
(当時の議事録から編集)
- 行政がデータを表に出すことへの抵抗を感じる。アイデアソンを実施してその結果を庁内で共有しても悪用の恐れを懸念する部署が多く難しい
- データの所有者から、データに関連する人の理解を得られないがためにデータを提供できないと言われることがある。データの所有者がデータを出したくないのではなく、関係者の理解を得にくいから出せないという点が大きな課題だと考える
- 地域の情報をオープンにするなら住民の理解がないといけない。ITを活用して地域の可能性を広げるには、その地域に暮らす商工業者、住民、通行人、観光客等の合意や工夫がないと難しい
- 自治体にオープンデータを出していただいたが暫くそのデータが活用されなかったために「失敗事例」と取り扱われてしまい、データ提供に取り組んだ関係者の気持ちが萎んでしまったことがある。オープンデータの取組みにあたっては「Open by Default」という姿勢を基礎としてほしい
- 自治体としてデータを出しづらいと言われることや、広域での連携ができていないことが、オープンデータの活動を続けていく上での壁になっている
- 何が価値あるデータなのかがわかりづらい。データ活用を提案できる知識や人材が重要
データ連携・共有の必要性
また、部会員の関心ごとがIoTやビッグデータ等へと移っていきます。オープンデータというよりは、県や市町・また企業等機関どうしのデータの共有や連携を行うことの必要性を確認しあうようになりました。
(当時の議事録から編集)
- 生活に関する情報をオープンデータ化するなかで、県内で同一水準のスキームで取組みが進められれば、アプリなどで連動させることができ、住民や来県者の利便性に資する。19市町と県のコンセンサスを形成する場を設けるなどの工夫をしたい
- 公共データについてはニーズとシーズのマッチングを考慮に入れながら、基本的にはOpen by Defaultの方針で進めていただきたい
- 民間データについて、企業の競争力に関わるデータであっても、最終的に企業に優位性をもたらすもの、民間の人から見て便利だというデータを提供していただくことで、試験的に官民データポータルサイトを作成するのがよいと考えている
- 県全体でデータをまとめるからといって県に頼るというのは間違いで、それぞれの役割分担を全うしないといけない。あくまで県全体でまとめるのは県域におけるデータの持ち方、利活用のあり方である。統一基準を作って基準を各市で共有し、規格だけを作ってそれに合わせるのか、その方法はこれから
データ共有・連携に関する「滋賀地域共創データコンソーシアム構想」との連携模索
この議論とあい重なる形で、滋賀銀行さんが「滋賀地域共創データコンソーシアム構想」というものを打ち出しました。当時のことを、滋賀銀行さんが説明してくださいました。
「滋賀地域共創データコンソーシアム構想」には大きく3つのポイントがありました。 - 地域情報を地元で活用する仕組みの構築 - 滋賀県における高度な情報産業や人材の創出 - 安全で安心なデータ管理と利用ルールの構成 県や市町からはオープンデータを提供する、民間事業からもデータ提供を行い、県内のICT関連事業で支援を行う、大学では高度専門人材の普及を行うなど、それぞれの役割で出し合ったデータに基づいて、地方創生や人材育成、新ビジネスの創出等といったことを行おうというものでした。 具体的には県内のスマホ決済やIoT、また公衆無線LAN「びわ湖Free Wi-Fi」から得られたパーソナルデータを県内の大学やベンチャーが分析するほか、クレンジングされたデータは県内企業に有償提供し、その収益をもってコンソーシアムの運営に充てていくという構想でした。 この「滋賀地域共創データコンソーシアム構想」は、2017年1月にびわ湖放送の番組で行われた、滋賀銀行頭取と滋賀県知事の対談を通じて発表されました。
ICT利活用検討部会が「滋賀地域共創データコンソーシアム構想」との連携を模索したのは、ICT利活用検討部会ではオープンデータというもの以上に「企業や自治体とのデータ連携を一緒にやっていく」ことが重要だと認識していたからでした。つまりオープンデータは共有の手段であり、もっと基礎的なデータの共有・連携を行うことが大事であるということを、この4年間で確認していたのです。
4年間の議論によって、オープンデータの推進やデータ利活用の推進を進めるうえで必要な2点が確認された
このような県内の動きや議論を踏まえると、とかく4年間を通じて部会員で確認しあっていたのは、オープンデータの推進や、データ利活用の推進を進めるうえで必要なのは以下の点であり、その整備を行う実行力のある官民一体の体制づくりである、ということだったようです。
データ共有・連携のための「基盤」づくり
- データを提供する人たちの理解
- 自治体間や自治体内での語彙・データモデルのルール化
- 作成・更新・管理等の過程で生じる問題の整理と解決
- 誰が基盤づくりの取りまとめを担うのか
データ利活用のための「対話の場」づくり
- 官民が出会い、アイデアを出し合う場づくり(アイデアソンやハッカソンなど)
- 実際にデータを活用する人たちとの対話
以上を踏まえて、今後のワーキンググループでは、従来議論の柱となっていた、
- データ共有・連携のための「基盤」づくり
- データ利活用のための「対話の場」づくり
の2点に立ち返り、2018年度以降確認しきれなかった具体的な姿勢について言語化すること、またその記録を各会員が持ち帰っていただき、各々の事業に役立てていただくところまでをゴールにしていきます。
データ共有・連携のための「基盤」づくり
今回の第1回会合では、以上の整理をしながら、各々のこれまでの取組みを振り返りあいました。今回のワーキンググループに参加した県内ITベンダーの会員や自治体の会員は、当時を以下のように振り返ります。
我々は自治体のシステムベンダーという立場で参加をさせていただいていたんですが、その中では自治体でオープンデータをどのように出せるのか、出すにはどのように効率化すればよいのか、コンピュータ的な発想で参考にさせていただいていました。様々な事例を伺ったり、いろんなデータの出し方や使い方などを議論していたと覚えています。 そのなかで、滋賀県庁さんや滋賀銀行さんから滋賀地域共創データコンソーシアム構想のお話があり、官民一体的なバンクの構想をどうつくり、どうデータをマージしあってよいものを作っていくのかという議論をしていました。
当時はオープンデータについて、いかに出して、いかに使っていただくかという点が課題になっていたかと思いますし、そのデータについても、その語彙や形式が統一的にならないと使えないという議論をしていました。
アプリ開発やウェブサイト制作の事業に携わる別の会員は、ICT利活用検討部会に入ったきっかけを「オープンデータを活用したアプリ開発のヒントになればと期待したことから」と話します。実際に2015年に県の受託で開発・公開した県民向け子育てサイト/アプリ(iOS/Android)では、彼らの提案によってオープンデータを提供しているほか、県庁がもつデータをアプリに活かせないかとまで提案したそうです。
子育てに関する情報だけでなく、避難所情報を提供し、警報が流れた際に近くの避難所に誘導できるコンテンツを組み込むことで、常に保持していただけるアプリにできないかと考えました。その避難所情報を県からオープンデータとして自由にダウンロードできるようになれば、その情報をアプリに生かせると滋賀県に提案したことがあります。 避難所情報はオープンデータとして提供されなかったのですが、アプリ用に都度データを提供していただけることになりました。しかし、最初は担当者から都度更新されたデータを提供していただいていたところ、担当者から我々に提供していただく手間も毎回かかってしまうことから、更新頻度が下がってしまう課題が生じたんです。それではサービスを提供できないというのでデータの活用を断念し、会社としてもオープンデータ提供の提案に対してトーンダウンしました。 データを提供される方に対しては、活用されるデータが常に最新なものになっているというニーズに対する課題を持っていただかないと、サービスとしてデータを活用することは難しいのかなと思います。
このような、データを出す側の労力や理解に関する課題は、庁内でオープンデータを推進する自治体担当者側も認識しているといいます。
庁内ではオープンデータ化が全く進んでおらず、職員からは「広報・ホームページその他で既に提供しているから問題ない」と思われているのが実情です。資料にしてもPDFで出さずに機械判読性のあるデータでと説明するものの、担当者にとってはPDFでアップしたほうが簡単なので「PDFを公開して終わり」となってしまっています。
2015年当時、担当課はオープンデータについての認識もなく、そんな中「データを出してください」とお願いしていて、大変苦労していた記憶があります。その後に「官民データ活用推進基本法」が施行され、これが追い風になるかと思っていたのですが、担当課のオープンデータへの理解度は現在もそれほど状況が変わっていないというのが実情です。
そもそものデータをつくる作業や更新する作業、またそのデータのルールを決める作業が、実務上はボトルネックになっているようです。
データ利活用のための「対話の場」づくり
データを公開するだけでは意味がない、どのように使ってもらえるのか、その対話の場づくりが必要であるということも、これまで4年間の議論では何度も語られてきました。
データを活用したい人は何が欲しいのかということを理解しないといけません。データを欲しい人、データを出したい人の思いをうまくマッチさせないとダメなのかなと感じていました。
県内の自治体では、市民協働提案事業としてオープンデータを活用したアプリづくりの取組みを模索したところもありました。
当時は「データもなし」「アプリもなし」という状況だったところ、市民協働事業というスキームを活用してオープンデータを使ったアプリを市民と作れないかという提案をいただきました。 公募型で一般の市民に参加いただき、講師もお呼びして「オープンデータとは何ぞや」とか「実際にデータを作ってみよう」といったワークショップを行いました。アプリを市民の皆さんに公開するところまでは難しかったのですが、Google Mapsにデータをマッピングするところまでは皆さんと進められました。 一方でデータの提供については庁内の協力が難しかったため、既にホームページに公開されているPDF等からデータ(RDF)を作っていきましょうというところから始めました。ですので市民の皆さんもかなり大変な思いをしていただいたのかなというのはあります。
一方、当時この自治体に取組みを市民として提案していた方は、オープンデータの提供をめぐる当時の自治体とのやりとりについて、以下のように振り返ります。
取組みが進むにつれ、自治体の方とのコミュニケーションが難しくなり、活動を引いた経緯があるのですが、それは担当課の温度が低かったからという理由ではないんです。きっかけは議会でした。 これは決して議会が悪いというわけではないのですが、当時議会でオープンデータ化を積極的に進める動きがあり「庁内全ての担当課で強制的にオープンデータ化させていこう」とする熱が生まれていました。しかし私たちはただ生活が便利になっていくことを目的に行政の方と取り組んでいるのに、行政はデータ化だけが使命になっていく。そういう距離感が生まれたために、活動を引かせてもらったのです。 これは卵が先か鶏が先かというような話ですが、データよりもどういったアプリが必要なのかわかってからデータ化しないと、不用意に行政の仕事が増えてしまうだけで、本末転倒になってしまうのだろうと思います。
データを公開することだけが目的になってしまうと、データを活用したいと考えている側との対話が難しくなってしまうのかもしれません。ちなみに当時のICT利活用検討部会では議論されなかった話題ですが、県内ではデータの提供をめぐる悪用リスクについて、以下のようなエピソードもあったそうです。
2015年に自治体にオープンデータの提供を呼びかけた際、「消火栓の位置を公開するのは、水道の安全に関わるから出せない」といって断られたことがありました。消火栓の位置データがオープンになると、みんながどこに消火栓をつなげば早いのかを知ることができます。しかしその反面テロ等の悪用リスクがあると言われてオープンデータにならなかったのです。
データが悪用されるかどうかはデータがオープンであるかと本来無関係なもののはずですが、オープンデータの認知度が低い頃にはそういう声があったのかもしれません。
県内実践者も交えて、県内でオープンデータを推進していくための「姿勢」を言語化しよう
公共交通のデータを世界標準のデータモデルで公開して取り組んでいる県内事例など、実は滋賀県内の自治体でも先駆的な事例はたくさんあります。一方でデータを活用しようとして取り組まれながら、先ほどの話のように原課や市民とのコミュニケーションのなかでうまくいった事例、うまくいかなかった事例もたくさんあります。
実は7年もの間、県民や行政の手弁当によってオープンデータの取組みは行われ続けていました。そんな滋賀県こそオープンデータの先進県だという自負を持ち、そんな自治体や企業や市民が頑張ってきた積み重ねを、このワーキンググループできちんと形にし、今後の取組みに生かしてもらえるようにできればと思います。
今後のワーキンググループでは、上記2点に対する姿勢のとり方について、県内実践者と確認しあうダイアログを設け、それらの記録も交えて、今後どのような姿勢でオープンデータを推進していけばよいか、ワーキンググループの皆さんと取りまとめていきます。